紛争の内容
依頼者は、鉄道駅出口至近に借地を有する方です。駅地下マンションの建設計画の一角となり、当該借地上に共同住宅を有する借地人の方から、底地の売却を求められ、借地契約を終了させ、底地を売り渡すか、借地契約を更新するか、その場合の更新料をいくらとするか相談を受け、依頼を受けたものです。
借地権者の方の窓口は、マンション開発業者の方のようでした。
本件借地関係においては、地主は亡父を相続したもの、借地人夫婦は、本件借地権を共同で譲り受け、借地権譲渡の承諾料と借地上に共同住宅の建築のため、借地条件の変更の承諾料を支払ったものであり、この契約書は賃貸人側の代理人弁護士が作成したものでした。
なお、借地上の建物の登記簿を確認したところ、共同住宅の所有者名義人である共有者の変更があったことが認められました。この共有者の変更は、相続によるものではなく、本来であれば、準共有された借地権の無断譲渡でしたが、これについては不問に付すこととしました。
交渉・調停・訴訟などの経過
依頼者は、検討の結果、令和4年11月に終了する借地契約を更新することとしました。
そこで、地主賃貸人の代理人に就任した旨の通知を借地人、借地人窓口業者に発するとともに、借地契約の更新を求めること、更新するなら、更新料を支払ってもらうべきことを申し入れました。
借地人が、更新を望まず、借地契約の解消を求める可能性は否定できませんでした。
当方の依頼者が底地を売却しないのであれば、借地権の売却もなく、更新するとの返答がありました。
本借地人との間には、仙台の賃貸人である父の代理人弁護士が作成した土地賃貸借契約書がありました。
賃貸借契約書には、更新料支払いについての特約は定められていましたが、その具体的な金額はあらかじめ定められていませんでした。
そこで、裁判例を参考に打合せの結果、数年前に亡母の相続による相続税申告をした際に、税理士が算出した同土地の相続税評価額、つまり、路線価をもとに更地価格を算出し、裁判例でその6%の更新料支払いを認めた例があったことから、算出された210万円の支払いを求めました。
借地人は、この更新料の算出が相当かどうかも含め検討したいと返答がありました。
その後、借地人から、210万円を更地価格として算出された金額の5.5%程度、ずばり、190万円に減額してもらいたいとの回答がありました。
依頼者と協議後、本件更新においては、これを承諾し、しかし、更新契約書には、次回更新時には、更新する年(年度)の路線価から算出された更地価格の6%とすることを合意できるならと条件を付けました。
借地人もそれを承諾し、その内容で、更新の賃貸借契約書を作成し、双方当事者調印するとともに、借地人から、更新料の支払いを受けました。
本事例の結末
当職が代理人に就任し、提案、協議し、更新契約書の取り交わし、更新料の支払いに至るまで、2か月ほどで解決をみました。
借地人も、次回更新時には更新料の金額も想定し易くなったとして、次の借地人(その時は、相続人を想定していました)も安心だとしていました。
上記合意が見られた後、まもなくして、借地人から、本件借地権の譲渡(買取)の話が出てきました。
その連絡を依頼者から受けていましたが、その二週間後、代理人であった当職のもとにも電話があり、家族の事情により、手放すことを考えるようになった。できれば、地主さんに買い取ってもらいたいという話でした。
依頼者は、検討中とのことです。
本事例に学ぶこと
従前の借地契約に更新料特約がありましたが、更新料の具体的な算出方法は定められていませんでした。
そもそも、更新料特約が定められていなければ、更新料支払いを求めることは原則としてできません。
先代の地主の代理人は、更新料特約を設けた賃貸借契約書を作成していましたので、更新料の具体的金額を過去の裁判例をもとに算出し、提案しました。
これまでも、更新料請求のその支払い請求の民事裁判で被告となった借地人の代理人として事件を担当したことがありましたが、これは、いわゆるバブル時代を挟んだものでしたので、地価の高騰が著しく、借地人としては、その更新料が高額に過ぎるとしたものでした。子の借地契約書も、地主側代理人の手によるもので、当時の裁判例で認められていた更新料の算出根拠(更地価格の6%)が定められていました。しかし、これも更地価格の算出に、路線価を用いるのかは不明でした。
また、都内の著名な地域にあり、また、大手の不動産会社のブランドの借地権付マンションの売買契約書のチェックの依頼を受けた際も、更新料は、更新時の路線価により算出された底地ないし借地権価格に一定のパーセンテージをかけたものとする特約が定められていました。
路線価は、毎年国税庁が発表し、今では、インターネットでだれもが検索できますので、予測可能性が担保されておりますことから、借地権付きマンションを譲り受ける方も将来の費用負担の予測が立ち、好ましいものとの印象を持っています。
借地の更新、更新料特約に基づく更新料支払い請求のご相談がありましたら、ご用命ください。
弁護士 榎本 誉