解雇や残業代等の問題について従業員との間で紛争が生じた場合、当事者間の協議で合意に至ればその時点で紛争は解決となりますが、双方の主張の対立が激しく、なかなか折り合いがつかないというケースでは、従業員が協議を打ち切って紛争を裁判所に持ち込むということがあります。
従業員が労働紛争を裁判所に持ち込む方法については、大きく、労働審判と訴訟とに分かれますので、今回はパターン別の対応について解説していきます。
裁判所手続の選択について
会社と従業員との間の協議が決裂した後、従業員が労働紛争を裁判所に持ち込むにあたり、労働審判か訴訟のいずれを選択するかについては、当該労働紛争が一般的な内容である限り、基本的には従業員の判断に委ねられています。
迅速な解決を期待して労働審判手続が申し立てられるケースが多いですが、協議の経過から妥決の可能性が極めて少ないと従業員が判断する場合や厳密な審理の上労使いずれの主張が正しいかを明確にしたいと従業員が考える場合など当初から訴訟が選択されるケースもあります。
従業員から労働審判を申し立てられた場合
労働審判とは?
労働審判は迅速な労働紛争解決を目的に創設された制度であり、原則的に3回目までの期日の中で紛争解決を目指すものです。
その迅速性ゆえ訴訟に比べて審理の厳格さは控えめであり、また、判決ではなし得ない双方の言い分を踏まえた中間的な結論が導かれる場合もあります。
労働審判の特徴
労働審判では結論を至るまでの時間制限が設けられているため、迅速に審理を進めることができるよう様々な仕組みが採用されており、主だったものとして以下があります。
・初回期日は原則として申立てから40日以内に設定される。
・初回期日から具体的な審理に入れるよう、初回期日までに当事者双方が主たる主張・立証を終えておく必要がある。
・期日には当事者が出頭し、裁判官等から直接当事者に対する聴き取りが実施される。
・3回目の期日までに当事者間で合意が調わない場合には3回目の期日に裁判所が審判を下す。審判に不服がある場合には当事者双方が審判に異議を申し立てることができ、その場合には訴訟に移行する。
労働審判を申し立てられた際の会社側の対応
従業員から労働審判を申し立てられた場合の会社側の対応を①~④の観点から整理します。
①裁判所から労働審判手続申立書や証拠とともに「期日呼出状及び答弁書催告状」が届きます。
同書には、第1回労働審判期日が開催される日時や従業員の申立てに対する会社の主張を記載する答弁書の提出期限が記載されていますので、それらの内容を確認します。
答弁書の提出期限は期日の10日程度前とされることが多くなっています。
②初回期日が申立てから40日以内に設定されることを前提に、答弁書の提出期限を期日の10日前とすると、会社の準備期間は2~3週間程度です。
答弁書には会社側の基本的な反論事項をすべて盛り込んでおく必要があるため、申立書に記載された内容を把握している従業員に対する事実確認や会社側の主張を根拠づける証拠の収集を早急に行い、答弁書の形に落とし込む必要があります。
③答弁書作成と並行して期日に参加する人物の選定を行います。裁判所からは当時の具体的な状況に関する質問がされるため、申立書や答弁書の記載内容を実際に経験している従業員の参加は必須です。そのような人物が用意できないとなると裁判所は期日に参加している申立人の主張を前提に判断を行う可能性がありますので注意が必要です。また、期日では労働紛争の解決条件についての意見や決断を求められることがあるため、決裁権限を有する人物に連絡が取れる状況にしておくことが好ましいです。
④当事者双方に対する聴き取りを終えた段階で裁判所からある程度の心証(労働紛争の結論をどのように考えるか)が開示されることがままあります。開示された心証が会社にとって有利なものか不利なものかで話し合いでの解決とするのか審判を下してもらうかの方向性を定めます。裁判所が下す審判には双方が異議を述べることができ、異議が述べられた場合には訴訟に移行するため、訴訟になった場合の帰結を踏まえて方向性を検討する必要があります。
従業員から訴訟を起こされた場合
訴訟とは?
訴訟は、双方の主張及び証拠を前提とする厳密な審理を踏まえ、労働紛争に関する詳細な判断を行うものです。
和解の解決とならない場合、判決では従業員の言い分が認められるか否かの二者択一的な判断がなされます。
訴訟の特徴
労働紛争の内容について詳細な判断を行う関係で期日の回数に制限は設けられていません。
訴訟は基本的に主張書面のやり取りを行うことで進行し、当事者の言い分を法廷で確認する尋問という手続は、当事者の主張・立証が尽くされた訴訟の終盤で行われることになります。
訴訟の終結は和解か判決という形でなされ、判決については当事者双方が控訴することができます。
訴訟を起こされた場合の会社側の対応
従業員から訴訟を起こされた場合の会社側の対応を①~③の観点から整理します。
対応の主な流れは労働審判の場合と大きく変わりませんが、審理の方法や進行速度が異なるため、各段階における対応の程度に差が出てきます。
①裁判所から訴状や証拠とともに第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状が届きます。
同書には、訴訟の第1回期日が開催される日時や従業員の訴えに対する会社の主張を記載する答弁書の提出期限が記載されていますので、それらの内容を確認します。
期日は1か月程度先に指定されることが多く、答弁書の提出期限は期日の1週間前とされることが多いです。
②労働審判と異なり、初回の答弁書は従業員の訴えに対する結論部分のみ記載する(請求の趣旨に対する答弁のみ)という形でも許されます。当然のことながら、初回から詳細な答弁書を提出することもできます。
初回に結論部分のみの答弁書を提出した場合には、次回期日までに関係する従業員への事実確認や主張を根拠づける証拠の収集等を行った上で作成した詳細な反論書面を提出することになり、それ以降はしばらくの間、互いに反論書面を出し合うことになります。
③当事者双方の主張が出尽くしたタイミングで、裁判所から和解の勧めがあるパターン、当時の状況について把握している人物の尋問を実施するパターン、その順番が前後するパターン等に派生していき、和解ができない場合には裁判所が判決を下します。
裁判所から和解の勧めがある場合、裁判官からその時点における心証が開示されることが多いのですが、裁判官によっては心証を明確にしない場合もあります。和解に応じるか否かは判決になった場合に予想される帰結を踏まえて検討することになります。
まとめ
ここまで従業員が労働紛争を裁判所に持ち込んだ場合の対応について解説してきました。
従業員が選択する手続により会社側の対応が異なる部分がありますので、従業員がいずれの手続を選択したかを裁判所から送付される書類から適切に読み取る必要があります。
裁判所の手続においては、関係者から聞き取った事実関係をもとに自身の主張を正確に書面に落とし込むという作業が必要となりますが、それを期日までに短時間で行うことは容易ではありません。
手続を弁護士に依頼し期日までに万全の準備をしようとする場合、裁判所から書面が届いたタイミングで弁護士の選定を始めるというレベルのスピード感が要求されますので、事前に紛争化した場合の認識を持っておくことが重要となります。
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