紛争の内容
製造会社で働いていた男性従業員(外国籍)が、深夜、工場内において一人で作業中にコンテナが落下する事故に遭い、怪我を負った。
従業員はしばらくして退院したものの、その後、会社と連絡がつかなくなった。出社してこないままにおよそ1年が経過した頃、従業員の加入した労働組合から、会社に対し、解雇無効確認・未払いの深夜割増賃金の請求・労災事故による損害賠償の請求を求めて、団体交渉の申し入れがなされた。
会社代表者より相談を受け、労働組合との団体交渉の受任をした。

交渉・調停・訴訟などの経過
弁護士、会社代表者、会社の経理担当者(以上、会社側)と、男性従業員、労働組合の執行委員長(以上、労働者側)とが一堂に会し、当事務所で団体交渉を行った。
第1回の団体交渉において解雇無効については誤解が解け(会社は解雇の意思表示を一切しておらず、従業員側の誤解であったことが判明)、深夜割増賃金については確かに支払っていなかったのは事実であったので、これを正確に計算して従業員に支払うことで合意した。
第2回目以降の団体交渉では、労災事故による損害賠償が主な争点となり、①事故の態様、②過失割合、③損害の算定、などについて確認と話し合いを進めた。労働者側には、労働基準監督署から後遺症害認定の資料や診断書を取り寄せてもらい、それをこちらに提出してもらったうえで、事実確認を慎重に進めていった。

本事例の結末
解雇無効については、会社による解雇がそもそもなかったことが確認できた。
未払いの深夜割増賃金については、確かに支払義務があるにもかかわらず支払っていなかったので、計算のうえ約30万円を支払うことで合意した。
労災事故については、後遺症害10級の認定が出ており、労働者側からは逸失利益を含めて約1,000万円の損害賠償を求める提案が出されたが、交渉の結果、約400万円まで減額のうえ、合意することができた(会社と労働者の過失割合=6:4で合意)。
団体交渉は全4回行い、依頼を受けてから半年以内で全ての問題を解決することができた。

本事例に学ぶこと
労災事故に関して上記のように請求金額を大幅に減額することができたのは、労働者が早期の支払いを望んでいたこともあるが、その他に、目撃者が一人もいない状況下での事故であったため、事故の正確な態様や過失の所在がよく分からない中での合意であったことも影響したと思われる。
労災事故、特に後遺症が主張されているような事案では、会社側も認定のもとになった資料を入手して事実確認をしっかりと行うことが肝心である。

弁護士 田中 智美