紛争の内容
依頼者は運送業を営む会社であり、相手方元従業員から未払残業代請求をされました。
ところが、相手方は社員という形態をとってはいるものの実態は個人事業主であり、運賃から経費を引いたものを給与として受け取っているという状況であったため、残業代が観念できるかは微妙な内容でした。
そのため、相手方の労働者性が主たる争点となりました。
交渉・調停・訴訟などの経過
まずは双方に代理人がついて示談交渉を行いましたが、労働者と個人事業主という異なる地位を前提に主張を行うため、議論は平行線を辿り、相手方が労働審判を申し立てました。
労働審判でも引き続き同様の議論となりました。労働審判の中で相手方は自身の働き方は個人事業主と同様であるということを認めましたが、裁判所は、依頼者が相手方について社会保険に加入し外形上は雇用契約という体裁をとっていたことを重視しており、簡単には相手方を個人事業主と認めることはできないとの心証でした。
相手方は500万円の和解条件を提示してきましたが、依頼者は業務モデルとして残業代を支払うことは想定していない、和解するとしても大きな金額を出すことは考えていないということでしたので、訴訟も視野に入れて上限100万円の支払い提案を行いました。
本事例の結末
双方に対する裁判所の説得を経て、依頼者が相手方に対して120万円の解決金を支払うという内容の和解が成立しました。
本事例に学ぶこと
本件は和解での解決となったため、相手方の労働者性についての判断はなされませんでした。
依頼者は訴訟も覚悟していましたが、訴訟になった場合のリスクや結論までにかかる時間等を考え和解金を支払うという中間的な解決を選択することにしました。
最終的な金額については、そこまでの主張の状況や裁判になった場合の見通しを双方が考え大幅な減額となりましたが、その前提としてできる限りの主張を行っておくことは重要であると考えます。
会社の対応として言い分は曲げず判決まで戦うという姿勢はもちろんあり得ますが、一定の対価を支払い戦略的に紛争を収束させるということが経営判断として正しいという場合もあります。
労働紛争に巻き込まれた場合には先の見通しを踏まえた決断をしなければなりません。弊所ではそのお手伝いをさせていただきますので、お悩みの場合は是非一度ご相談ください。
弁護士 吉田竜二 弁護士 平栗丈嗣