紛争の内容 
ある運送会社が、従業員から残業代請求を受けたという相談を受けました。お話を聞くと、従業員に雇用契約書を渡したが会社に返送してくれなかったという問題、固定残業代を支払っており、その説明をしたのに、従業員が労働条件について全く説明を受けていないと主張しているという問題がありました。

交渉・調停・訴訟等の経過
労働者の方は、裁判所に労働審判を申し立てており、会社に不利な審判が出ている状態でした。会社側の相談内容から察するに、会社側は従業員に労働条件を説明しており、固定残業代の支払いも有効であると判断できました。そのため、労働審判に対して異議の申し立てをして、事件を通常の訴訟に移行させることにしました。

訴訟においては、従業員に対して給与明細書を交付しており、明細書には固定残業代の支払いが記載されており、従業員がその存在について疑問を感じなかった事実、会社は毎月の固定残業代を従業員の売上に応じて計算して支給しており、雇用契約書をきちんと返送した他の従業員においても同様の支給をしており、問題となっている従業員の契約書が返送されていないのは偶然である事実、従業員は縁故による中途採用であり、縁故者が事前に労働条件について説明をしていた事実、及び、社会人経験のある人物が労働条件について何らの説明を受けないままに就職を決めることはあり得ない事実を主張しました。

本事例の結末
裁判所は、当方が主張した事実を認定して、従業員に対して会社が労働条件を説明していたこと、固定残業代の支払いが有効であることを認定し、従業員の残業代請求を認めないという判決を下しました。

本事例に学ぶこと
従業員との間で、雇用契約書の締結に不備があるケースにおいて、他の事実から、労働条件について具体的な説明をしたうえで契約が成立していることを認定してもらう方法を学びました。また、固定残業代の支払いがある場合にその有効性を認定してもらう方法を学びました。
残業代請求事件においては、以上のような問題が発生することがあり得ますので、お悩みの方はご相談頂けますと幸いです。

弁護士 村本拓哉