この記事では、下請法の概要と、下請法上の親事業者の義務である「書面の交付義務」(いわゆる3条書面)について解説します。
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下請法の基礎知識

1 下請法とは?

下請法は、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といいます。
この法律が定められた目的(第1条)は、親事業者(発注者側)と下請事業者(受注者側)との取引の公正と、下請事業者の利益の保護とされています。すなわち、親事業者と下請事業者との間では力関係に偏りがある場合が多いため、法律によって親事業者に様々な義務を課し、やってはいけないことを明確にして、取引の公正さを実現しようという趣旨です。
そのため、親事業者に当たる事業者においては、下請法に則った取引関係の構築が必要となります。

2 下請法が適用される事業者・取引とは?

下請法が適用されるかどうかは、事業者の大きさ(主に資本金の額)の比較と取引の内容によって左右されます。何らかの仕事を外注したり請負に出したりする取引関係の全てに下請法が適用されるわけではありません。以下、具体的に確認してみましょう。

⑴ 下請法が適用される事業者とは?

下請法は「親事業者」と「下請事業者」との間の取引について適用されます。
ここでいう「親事業者」「下請事業者」の定義は下請法の第2条に定められており、具体的には、取引内容と資本金の大きさで決められています(取引類型の詳細については後述の⑵を参照してください。)。
なお、「親事業者」は下記のような一定以上の資本金を持つ法人に限られますが、「下請事業者」には下記のような一定以下の資本金を持つ法人のみならず、個人事業者も含まれます。

ア 物品の製造・修理委託、政令で定める情報成果物作成(プログラム作成)・役務提供(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理)委託の場合
親事業者(発注者) / 下請事業者(受注者)
資本金3億円超 / 資本金3億円以下の法人事業者、又は個人事業者
資本金1千万円超~3億円以下 / 資本金1千万円以下の法人事業者、又は個人事業者

イ 情報成果物作成(プログラム作成を除く)・役務提供(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)委託の場合
親事業者 / 下請事業者
資本金5千万円超 / 資本金5千万円以下の法人事業者、又は個人事業者
資本金1千万円超~5千万円以下 / 資本金1千万円以下の法人事業者、又は個人事業者

⑵ 下請法が適用される取引とは?

下請法が適用される取引類型は、次の4種類です。

ア 製造委託(第2条1項)
「製造委託」に当たるのは、下記の4つの類型になります。

① 事業者が販売する商品そのものや、半製品・部品・附属品・材料、商品を作るための金型を、製造するよう委託すること
② 事業者が製造を請け負った商品そのものや、半製品・部品・附属品・材料、商品を作るための金型を、製造するよう委託すること
③ 事業者が物品の修理を業として行っている場合に、その修理に必要な部品や原材料の製造を委託すること
④ 事業者が自家使用又は自家消費する物品の製造を業として行っている場合に、物品そのものや、半製品・部品・附属品・材料、商品を作るための金型を、製造するよう委託すること
イ 修理委託(第2条2項)
「修理委託」に当たるのは、下記の2つの類型になります。

① 事業者が物品の修理を業として行っている場合に、その修理の全部又は一部を委託すること
② 事業者が自家使用する物品の修理を業として行っている場合に、その修理の全部又は一部を委託すること
ウ 情報成果物作成委託(第2条3項)
「情報成果物」とは、次のものをいいます(第2条6項)。

① プログラム
② 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
③ 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
「情報成果物作成委託」に当たるのは、下記の3つの類型になります。
① 事業者が情報成果物の提供を業として行っている場合に、その作成の全部又は一部を委託すること
② 事業者が情報成果物の作成を業として請け負っている場合に、その作成の全部又は一部を委託すること
③ 事業者が自家使用する情報成果物の作成を業として行う場合に、その作成の全部又は一部を委託すること
エ 役務提供委託(第2条4項)
「役務提供委託」とは、事業者が業として役務の提供を行っている場合、その役務の全部又は一部を委託することをいいます。
ここでいう「役務」とはサービス全般を指しますが、建設業を営む者が請け負う建設工事は対象外とされています(下請法ではなく、建設業法で保護される仕組みになっています。)。

下請法が適用される事業者・取引については確認できたでしょうか?
続いて、下請法が適用される場合の、親事業者の義務について確認していきます。

3 下請法による親事業者の義務とは?

下請法によって、親事業者には大きく分けて4つの義務が課されています。

① 書面の交付義務(第3条)

親事業者が下請事業者に対して、前述したような下請法の対象となる取引を委託した場合、直ちに必要な記載事項が書かれた書面を交付しなければならない義務(詳細は後述します。)。
いわゆる「3条書面」と呼ばれるものです。

② 書類の作成・保存義務(第5条)

取引の内容を記載した書面を作成し、2年間保存しなくてはならない義務。
いわゆる「5条書類」と呼ばれるものです。

③ 下請代金の支払期日を定める義務(第2条の2)

下請代金の支払期日を、受領日(実際に物が納品された日)または役務を提供した日から60日以内に定めなくてはならない義務。
注意点としては、検査日・検収日を定める場合でも、起算点が受領日とされていることが挙げられます。「月末締翌月末日支払」の場合でも、起算点は月末ではなく受領日になります。
したがって、各取引についてこの60日以内の支払期日が守られているか、管理が必要になります。

④ 遅延利息の支払義務(第4条の2)

下請代金を支払期日までに支払わなかったときに、遅延利息(現在は年率14.6%)を支払わなくてはならない義務。

4 下請法による親事業者の禁止事項とは?

下請法によって、親事業者には大きく分けて11の禁止事項が定められています(下請法第4条1項各号、2項各号)。
① 給付の受領拒否の禁止
② 下請代金の支払遅延の禁止
③ 下請代金の減額の禁止
④ 返品の禁止
⑤ 買いたたきの禁止。
⑥ 親事業者が指定する物・役務の購入・利用強制の禁止
⑦ 下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁長官に対して知らせたことを理由として、不利益な取扱いをすることの禁止
⑧ 有償で原材料等を支給した場合に、対価について、その原材料を用いた給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、相殺したり支払わせたりすることの禁止
⑨ 割引困難な手形の交付の禁止
⑩ 親事業者のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることの禁止
⑪ 不当な給付内容の変更又は給付のやり直しの禁止

3条書面についての解説

親事業者には4つの義務が課されていますが、その内の「書面の交付義務(第3条)」について詳しく解説していきます。

1 親事業者の書面の交付義務――いわゆる「3条書面」とは?

⑴ 書面の交付義務

下請法第3条1項には下記の定めがあります。

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

下請取引においては、口頭で発注される例が多くみられ、取引条件が不明確だったり後にトラブルになったりすることがあったため、発注時に取引条件等を具体的に記載した書面を交付することが親事業者に義務付けられました。
したがって、例えば口頭や電話で注文内容を伝えるのみで3条書面を交付しない場合には、下請法違反ということになってしまいます。
この条文により親事業者に交付が義務付けられている書面は「3条書面」と呼ばれています。
なお、3条書面には特に決まった形式・様式があるわけではありません。書面の題名・タイトルについても制限はありませんから、「契約書」でも「発注書」「注文書」でも良いということになります。大切なのは、次の⑵で述べるように、必要な記載事項が書かれているかどうかという点になります。

⑵ 注文書(3条書面)に記載すべき具体的な必要記載事項

3条書面に記載すべき具体的な項目については、公正取引委員会規則(「下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則」第1条)に定められています。

① 親事業者及び下請事業者の商号・名称(事業者別に付された番号、記号等でも可)
② 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
③ 下請事業者の給付(又は提供される役務)の内容
④ 給付を受領する期日(又は役務を提供する期日・期間)
⑤ 給付を受領する(又は役務を提供される)場所
⑥ 下請事業者の給付の内容(又は提供される役務の内容)について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦ 下請代金の額
⑧ 下請代金の支払期日
⑨ 下請代金の全部又は一部の支払につき手形を交付する場合は、その手形の金額及び満期
⑩ 下請代金の全部又は一部の支払につき、一括決済方式によって支払をする場合には、下記の事項
イ 金融機関の名称
ロ 金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額
ハ 下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関に支払う期日
⑪ 下請代金の全部又は一部の支払につき、電子記録債権を利用する方法で支払う場合には、下記の事項
イ 電子記録債権の額
ロ 電子記録債権の支払期日(満期日)
⑫ 原材料等を親事業者から購入させる場合には、その品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法

上記のうち、特に③の「給付の内容」については、どのような仕事を委託されたのか、下請事業者が具体的に把握できるように記載しなくてはなりません。
例えば、製造委託の場合には、品目・品種、数量、規格、仕様などを具体的に記載することになります。
3条書面に記載される「給付の内容」は、後に親事業者が「委託した内容が実現されていない」として給付のやり直しを求める根拠にもなりますので、可能な限り具体化し、明確にする必要があります。

⑶ 複数の下請取引において共通事項がある場合の書面の交付方法

下請取引では継続的な取引関係にある場合も多いと思われます。そのような場合に、各取引で共通する事項(例:支払方法、検収期間など)を「基本契約書」や「覚書」などにまとめて先に合意してしまい、各取引を行う際は個別に注文書や発注書などを発行するという取引方法も多く採用されています。
このような共通事項をまとめた書面に、上記①~⑫の必要な記載事項が定められている場合には、各取引の都度に発行する3条書面(注文書など)に重複して記載することは不要となります(公正取引委員会規則第4条1項)。
ただし、3条書面には、例えば「下請代金の支払い方法については令和○年○月○日付『基本契約書』による」などと記載して、対応関係があることを明確にする必要があります。

⑷ 下請代金の記載の例外(算定方法による記載)について

下請代金については、発注時に定額で定められる場合もありますが、実際にかかった工数(所要時間)や材料費などの実費によって変動するというケースも多くあります。そのような場合には、上記⑦の「下請代金の額」についてはどのように記載したらよいでしょうか?
上記の公正取引委員会規則第1条2項には、下記の通りの定めがあります。

下請代金の額について、具体的な金額を記載することが困難なやむを得ない事情がある場合には、下請代金の具体的な金額を定めることとなる算定方法を記載することをもって足りる。

すなわち、下請代金の算定の根拠となる事項(例:かかった時間等)が確定すれば具体的な金額が算定できる計算式を記載することになります。

例:どれくらいの工数(所要時間)が必要か分からない場合

×「下請代金は、実際の工数による。」
→実際の工数が確定しても下請代金の金額が計算できないため不可。
○「時間当たりの労賃単価○円 × 所要時間」
→労賃単価について具体的な数字を定めておけば、所用時間が確定したときに具体的な下請代金の金額が計算できる。

なお、具体的な算定方法が、3条書面とは別の書面に記載されている場合には、上記⑶と同様、対応関係を明らかにして引用することができます。

例:「下請代金の金額は、令和○年○月○日付『下請代金の計算方法について』第3項の計算方法による。」

2 例外的な書面の交付方法――補充書面について

上記で述べた通り、3条書面は取引(発注)の都度、交付することが原則となります。
しかしながら、①~⑫の必要な記載事項のうち一部について、注文時にはその内容が定められないことがあります。このような場合について、下請法第3条1項は、次の通りの例外を置いています。

ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

この例外規定のポイントはa.①~⑫の内容が定められないことについて「正当な理由」があること、b.当該事項の内容が定められた後直ちに補充書面を交付すること、の2点です。

a.その内容が定められないことにつき「正当な理由」があること

ここでいう「正当な理由」がある場合とは、取引の性質上、①~⑫の必要な記載事項の内容について、注文時には決定することができない客観的な理由がある場合を指すとされています。
例えば、前例のない試作品の製造委託であるために最終的な仕様が定まっておらず、注文時には「給付の内容」や「下請代金の額」が定まらないケースなどは、この「正当な理由」があると考えられています。
なお、上記でも述べた下請代金の算定方法が記載できる場合には、その算定方法を記載する必要があり、この「正当な理由」があるとはならないということに注意が必要です。
また、3条書面に下請代金の仮単価を記載する例も多くありますが、仮単価はあくまで「仮の」単価であり、単価を定めて記載していることにはなりません。下請代金の算定方法を記載するか、下請代金の額が定められないことにつき「正当な理由」がある場合には、補充書面で対応することになります。

b.直ちに補充書面を交付すること

①~⑫の必要な記載事項のうち一部について、注文時にはその内容が定められない場合でも、定められる事項については書面に記載して交付しなければなりません(この書面は「当初書面」といいます。)。
また、内容を定められず記載できなかった事項については、「内容が定められない理由」及び「内容を定めることとなる予定期日」を、当初書面に記載する必要があります(公正取引委員会規則第1条3項)。
「内容が定められなかった理由」については、上記a.の「正当な理由」があることが説明できる程度に具体的に書くようにしましょう。また、「内容を定めることとなる予定期日」については、具体的な日にちが特定できるように記載しなくてはなりません(なお、結果的に「予定期日」が守られなかったとしても直ちに下請法違反にはならないとされています。)。

そして、定められなかった内容が確定したときには、直ちに、確定した内容を記載した補充書面を交付する必要があります。
補充書面にも、特に決まった形式・様式はありません。
補充書面を交付する際は、その書面がどの当初書面を補充するものなのか対応関係が分かるようにしましょう(例えば同じ注文番号を付したり、「本『覚書』は、令和○年○月○日付『注文書』の記載事項を補充する書面である。」などと付記したりする方法があります。)。

3 3条書面の交付方法

3条書面は、紙の状態で交付することを原則として定められていますが、下請法第3条2項によって、電子メールに添付して送信するなどの電磁的記録の提供の方法で交付することも認められています。
ただし、この方法を採る場合には、書面又は電磁的方法によって、あらかじめ下請事業者の承諾を得る必要があります(下請法施行令2条1項)。
また、電子メールに添付して送信する方法を採る場合には、当該メールを送信しただけでは交付したとはみなされず、下請事業者が当該メールを受信して添付ファイルをパソコンに記録させて初めて交付があったとみなされるとしていますので注意が必要です。

4 3条書面の違反の場合

3条書面の交付義務に違反した場合、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者には、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります(下請法10条1項)。

5 3条書面の具体例

3条書面の各ケース別の具体例としては、公正取引委員会の公開している「下請取引適正化推進講習会テキスト」が大変参考になります(令和3年11月版では97頁以下)。また、公正取引委員会では、各種パンフレット等の資料も公開しています。
上記ホームページから無料でダウンロードできますのでご活用ください。

まとめ

この記事では、下請法上の親事業者の義務である「書面の交付義務」(いわゆる3条書面)について解説してきました。
3条書面が正しく交付されているかどうかは、下請取引関係の重要なスタート地点と言えます。下請法に沿った運用がなされるよう、記載事項や交付時期・交付方法を確認しましょう。