従業員を解雇する際に退職金を支払う必要があるかについて、お悩みになる場合があると思います。従業員が退職金を賃金として請求できるか否か、また、解雇の種類や社内規定の定め方によって、退職金の支払いの要否及び支払うべき金額は変わりますので、解説をいたします。
従業員は退職金を賃金として請求できるか
退職金の支払請求権は、当然に認められているわけではありません。退職金を支給するか否かの決定がもっぱら使用者の裁量にゆだねられている場合は、労働者は使用者に対して退職金を賃金として請求できません。
他方、雇用契約、就業規則、賃金規程、退職金規程等によって、支給の有無、支給基準が定められている場合は、労働者は退職金を賃金として請求できます。
そのため、解雇をする際に退職金を支給する必要があるか否かは、まずは、上記のような定めがあるのか、それとも使用者の裁量にゆだねられているのかを検討すべきです。
解雇の種類によって退職金の支給の必要性は異なる。
はじめに
上記のような検討に従い、通常であれば退職金を払わなければならないとなったときに、解雇の場合はどうなのかという検討を行うべきです。解雇の種類によっては、退職金の支払い義務が無い場合があるためです。
解雇の種類
解雇には、次のような種類があります。
①普通解雇…下記の②ないし④以外の解雇
②整理解雇…会社の業績が悪化したために人員削減を行う場合等、会社の経営上の理由で解雇することをいいます。
③懲戒解雇…会社のルールに違反した場合の制裁として行う解雇を言います。
④諭旨解雇…懲戒解雇を行うことができる場合に、温情措置として懲戒解雇は行わず、労働者側に退職届を提出させて、従業員が退職を受け入れたうえで行う解雇を言います。
普通解雇の場合
普通解雇の場合、能力不足、病気、出勤日数の不足、協調性の欠如等を理由として解雇する場合があり、従業員側の問題を理由とする解雇であるため、退職金の支給の必要性が問題となり得ますが、退職金は支払う必要があると考えます。
もっとも、雇用契約、就業規則、退職金規程等によって、普通解雇の場合には退職金の支給割合が、通常の退職よりも少なくなるという定めを置くことは可能ですので、このような定めを置いている場合は、通常の退職よりも少ない金額を支払うことで済みます。
整理解雇の場合
整理解雇の場合、使用者側の都合によって労働者は退職を余儀なくされますので、使用者側に退職金の支払義務があります。
もっとも、使用者側が倒産しそうであるという場合は、事実上、退職金を支払うことができないという可能性はあります。
破産法上は、退職前3か月間の給与に相当する金額(その金額が破産手続き開始前3か月間の給与の総額よりも少ない場合にあっては、破産手続開始前3か月間の給与の総額)の退職金については、財団債権といって他の債権よりも優先して支払うべき債権として保護されていますが、同じように保護されている滞納税金の金額が大きかったりしますと、退職金を全額支払うことができないという可能性があります。
懲戒解雇の場合
懲戒解雇は、労働者が会社のルールを違反した場合の制裁として行う解雇であるため、この場合には退職金を支払う必要が無いと考えてしまう所ですが、不支給とするためには、あらかじめ、雇用契約、就業規則、退職金規程等で、懲戒解雇の場合は退職金を不支給とする定めをしておく必要があります。
また、このような定めがあるだけではなく、退職までの勤続の功を抹消又は減殺するほど著しい背信行為があることという要件も満たされる必要があります。
さらに、労働者側は懲戒解雇の有効性を争い、退職金の支給を求める訴えを起こす可能性がりますので、懲戒解雇が有効であるかの検討は慎重に行う必要があると考えます。
諭旨解雇の場合
諭旨解雇は、労働者が会社のルールを違反した場合の制裁として行う解雇であるため、この場合には退職金を支払う必要が無いと考えてしまう所ですが、不支給とするためには、あらかじめ、雇用契約、就業規則、退職金規程等で、懲戒解雇の場合は退職金を不支給とする定めをしておく必要があります。
また、このような定めがあるだけではなく、退職までの勤続の功を抹消又は減殺するほど著しい背信行為があることという要件も満たされる必要があります。
まとめ
解雇の際に退職金を支払うべきかを検討する際、まず、従業員が退職金を賃金として請求できるか否かを検討します。そして、賃金として請求できる場合は、解雇の種類や社内規定の定め方を確認し、退職金の支払いの要否及び支払うべき金額を検討することになります。また、将来の事案に備えて、社内規定の制度設計をどのようにするかという点も大事になってきますので、検討が必要です。
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