近年の経営者(使用者)側からのご相談で意外と多いのが、「社員(従業員)が刑事事件を起こしたので、どのように対応したらよいか?」というご相談です。

特にその中でも多いのが、暴行や傷害事件です。

では万が一そのような事態となった場合、会社としてどのようなことに気をつけ、どのような対応をすべきでしょうか。以下解説していきます。

暴行罪・傷害罪とは

暴行罪

人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。

「不法な有形力の行使」とは、端的に言えば、例えば殴る・蹴る・物を投げつける等です。

また、人の身体に向けられたものであればよく、直接的な接触は必要ありません。人の近くに物を投げ、たとえそれが当たらなくても、不法な有形力の行使にはあたります。

法定刑(罰則)は、「2年以下の懲役刑又は30万円以下の罰金刑」です(刑法第208条)。

傷害罪

他人に傷害を負わせた場合に成立する犯罪です。

「傷害」とは、人の生理的機能を害することであると解されています。

法定刑(罰則)は、「15年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金刑」です(刑法第204条)。

暴行・傷害の具体例

相談として多いのは、以下のようなケースです。

・上司や同僚とトラブルになって殴る・蹴る等の喧嘩に発展した

・飲み会後、酔っぱらって近くの人とトラブルになり、殴る・蹴る等の喧嘩に発展した

従業員が暴行・傷害事件を起こした場合の対応

従業員が暴行・傷害事件を起こした場合、会社としてどのような対処、対応ができるのでしょうか。

まず最初に行っていただきたいのが、「事実関係の調査」です。

(1)事実関係の調査

当該従業員との面談

暴行や傷害の事実が不確かなままでは、本当はそのような事実がないのに会社として処分をしてしまい、結果、一種の「冤罪」のようなことになってしまう危険性があり、そのような場合には、当該処分を受けた従業員から、損害賠償請求されたりしかねません。

そこで、まずは暴行・傷害行為の事実確認調査を迅速に行うべきです。

人の記憶は時間の経過とともに段々と薄れて行ったり、記憶違いを引き起こす可能性が出てきますので、可能な限り早く事実確認調査を行うべきです。

「本当に暴行や傷害行為をしたのかどうか」「その経緯や理由は何か」といった点を確認しましょう。

また面談の際は、やりとりをボイスレコーダーで録音する、当該従業員が事実関係を認めた場合にはその旨を書面に記載してもらうなど、客観的な証拠として残すという対応も良いと思います。これらがないと、後々言った/言わないの水掛け論になる危険性があります。

書面に残す際は、いつ、どこで、どのような行為をしたのか、その内容を記載してもらいましょう。

また、あらかじめ書類を作って名前だけ書かせるよりは、従業員自身に作成させた方がよいと思います。従業員の直筆で書かれた書面が残るという点で、あとから否定される可能性が相対的には低くなります。

以上の事実関係の調査の結果、従業員による暴行・傷害行為が明らかになった場合は、いよいよ以下の2つの対応策を検討していくことになります。

・解雇などの懲戒処分

・再発防止策を講じる

(2)対応策①:解雇などの懲戒処分

考えれる処分

処分内容には、出勤停止や減給、降格、戒告などがあります。最も重い処分としては解雇があります。

解雇

解雇は、大きく普通解雇と懲戒解雇の2つに分かれます。

① 普通解雇

普通解雇とは、従業員の能力不足や協調性の欠如、会社の経営悪化、就業不能など、社員の労務提供が不十分な場合に行われる解雇をいい、懲戒解雇以外の解雇をさします。いわゆる整理解雇も普通解雇の一種です。

②  懲戒解雇

これに対して懲戒解雇は、従業員が就業規則などで定められた懲戒事由に該当することを理由に、懲戒処分として解雇を行うことをいいます。秩序に違反した社員に対して行う制裁的意味合いを持つ解雇です。

普通解雇と懲戒解雇との違い

両者とも解雇であり、結果として使用者と労働者の雇用関係が消えるという点では同じです。

しかし、懲戒解雇の場合、退職金の全部又は一部が受け取れない場合があります。また、失業給付の受給が遅くなるなど、普通解雇に比べて社員に与える影響は大きくなります。

そのため、必然的に懲戒解雇のほうが、普通解雇よりも解雇処分の正当性が厳しく判断されることになります。

解雇が有効といえる場合

解雇の合理性・社会的相当性

解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働基準法第18条2項)。

すなわち、解雇が有効とされるためには、解雇権の濫用とされないだけの①合理的な理由と②社会的相当性が必要なのです。

そこで、解雇を実行する前には、当該事案に①合理的な理由と、②社会的相当性があるかどうかを十分に調査・検討する必要があります。

暴行・傷害の場合

それでは、従業員による暴行・傷害事件については、解雇処分をとることができるでしょうか。

基本的な考え方のポイントとしては、「暴行か傷害か」という点と「会社内(業務内)か会社外(業務外)か」という点になります。

暴行か傷害か

暴行の程度にとどまる場合は、懲戒解雇は厳しいと思います。

一方で、被害者が怪我をしているような傷害の場合には、懲戒解雇も認められる場合が多いと思います。

ただ、傷害と一口に言っても、その程度には比較的軽いものから重いものまで色々あります。

そのため、傷害の程度が軽微な場合などで懲戒解雇を行うことは厳しいと思われます。同様に、加害者側が謝罪し被害者側もこれを受け入れ示談が成立している場合等も、懲戒解雇を行うことは厳しいと思います。

したがって、そのような場合には、解雇よりも軽い処分(例えば、出勤停止や減給、降格、戒告など)を検討いただいた方が良いと思います。

会社内(業務内)か会社外(業務外)か

例えば、事件が会社内(業務内)で起こったものであれば、深刻な懲戒事由として扱う必要があろうかと思います。

一方で、会社外(業務外)での事件の場合、確かに会社としては、このような業務外での犯罪行為をした社員(従業員)の存在は、他の社員(従業員)へ悪い影響を与えるということで、何らかの懲戒処分を講じたいと思うのは自然なことです。

しかしながら、業務外での犯罪行為の場合は、必ずしも懲戒事由とはなりません。

なぜなら、使用者が従業員に対して懲戒処分できるのは、使用者が会社内の秩序を維持する権限を有しているからであり、そのような権限を行使できるのは企業秩序維持義務違反があった場合に限られるからです。

ただし、業務外の犯罪であっても、その犯罪行為による会社への社会的影響が大きい場合などには、会社内の秩序に悪影響を与えたと言える場合もありますので、個々の事案によって個別に判断していく必要があります。

(3)対応策②:再発防止策を講じる

従業員の暴行や傷害事件は、その内容によっては、会社のイメージダウン等、会社にも大きな損害を与える場合があります。

そのため、今後二度とそのような事件が起きないよう、再発防止策を実施することが大切です。

例えば、定期的に従業員のヒアリングを実施して、健康状態や人間関係で悩んでいないか確認するなど、具体的な策を取ることで事件の防止につながる場合があります。

加えて、就業規則の見直しや管理体制の強化も行なうとより安心です。

従業員にも、暴行や傷害事件を起こしてしまうとどうなるか、真剣に考えてもらうきっかけにもなります。

(4)まとめ

以上に説明した解雇などの懲戒処分、再発防止策は、個々の事案によってそれぞれどのレベルのものが必要か、あるいは妥当かよく検討した上で対応をしていくことになると思います。

そこで、当該事案に対して、どのような対応が良いかについては、弁護士ともよく相談し決められると良いかもしれません。


ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。まずは、一度お気軽にご相談ください。 また、企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅

弁護士のプロフィールはこちら