能力不足、仕事ができない社員を解雇することができるか?弁護士が分かりやすく解説していきます

経営者(使用者)側からのご相談で「能力不足(仕事ができない)社員を解雇できるか?」

という趣旨の相談は多くあります。

しかし、能力不足(仕事ができないこと)を理由に社員を解雇する場合、経営者として気をつけるべき点は多くあります。

そこで、能力不足、仕事ができない社員を解雇する場合の要件や、会社が気を付けるべき点などを分かりやすく解説していきます。

能力不足、仕事ができない社員の解雇

能力不足、仕事ができない社員の解雇

能力不足の社員、仕事ができない社員

能力不足、仕事ができない社員と一口に行っても、人によって様々です。

例えば、以下のようなものがあります。

①本人に職務を行うのに必要な能力が不足しているために、会社から与えられた仕事をこなせない場合

②会社の業務そのものの難易度が高く適応できない場合

③勤務時間中に居眠りをしたりおしゃべりをするなどして仕事ができない場合

④もともとは仕事ができていたが、業務に疲弊し精神疾患を患ってしまい、仕事ができなくなってしまった場合

上記①~④のような社員がいる場合、会社がそのまま放置をしておくと、会社全体の生産性が下がる上、他の従業員に対する影響も良くありません。

そのため、会社側としては、放置しておくという選択肢は中々取りづらいものです。

能力不足、仕事ができないことを理由に解雇できるか

能力不足、仕事ができないことを理由に解雇できるか

能力不足、仕事ができないことを理由に解雇を行う場合でも、一般的な解雇の場合と同様に、法律上の規制を受けることになります。

具体的には、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働契約法第16条)。

すなわち、解雇が有効とされるためには、解雇権の濫用とされないだけの①合理的な理由と②社会的相当性が必要なのです。

そこで、解雇を実行する前には、当該事案に①合理的な理由と、②社会的相当性があるかどうかを十分に調査・検討する必要があります。

解雇は非常に厳しい処分ですから、慎重にしなければ、解雇が無効となることもあります。

解雇に①合理的な理由と②社会的相当性があるといえる場合

解雇に①合理的な理由と②社会的相当性があるといえる場合

就業規則に「勤務成績又は能率が不良で就業に適しないと認められる場合」などと規定がある場合、能力不足や仕事ができないことを理由として普通解雇できる場合があります。

しかし、経営者が、単にこの労働者は能力不足だ、仕事ができないと漠然にあるいは直感で感じただけでは足りません。あとで解雇の正当性が争われた場合に、客観的にも理由の合理性が説明できなければなりません。

そこで、労働能力についての評価の基準を明確にした上で、そこに達していないことが証明できるような資料を集めておくことが必要となります。

判例においても、「解雇事由は極めて限定的であって、労働能力が平均的な水準に達していないというだけでは解雇理由として不十分であり、著しく能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」としたものがあります。

また、労働能力が劣っているとしても、いきなり解雇を言い渡すことは避けなければなりません。解雇はあくまで最終手段です。

そこでまずは、改善のための注意・指導・研修を行う、解雇もありうる旨の警告を伴った観察期間を設け、従業員が努力により労働能力を向上させることのできる時間的猶予を与えることが必要です。

その他、解雇以外の方法として、配置転換や退職勧奨を先に検討するということも重要になってきます。

(1)客観的に能力不足と評価できる何らかの資料

例えば、

①日々の日報や報告書

②社内の議事録や面談記録

③本人がミスをした際の始末書、顛末書、反省文などの書面

などです。

これらをきちんと残しておくことが重要です。

(2)改善のための注意・指導・研修などの実施

これらの実施はもちろんなのですが、さらにきちんと証跡として残しておくことが重要です。

例えば、注意書、指導書、指導に関するメール、社内の議事録、本人との面談記録、研修の受講証などをとっておくことが肝要です。

配転命令の検討

配転命令の検討

能力不足、仕事のできない社員を解雇する場合、上記のとおり、「仕事ができない」という客観的事実に加えて、指導をしたが改善の見込みがなかったというような事情のほか、解雇以外の方法で、やはり改善がされなかったということも、解雇の有効性を基礎づける事情になります。

そのため、能力不足、仕事ができない社員について、解雇をする前に、配置転換を一度検討することも大切です。

もっとも、配置転換もむやみやたらにできるものではありません。

就業規則に定めがあるか、労働者の労働契約の中で特定の業務についての合意をしていないか(労働契約上配転ができない可能性がある)に加えて、配転命令が権利の濫用になっていないか。ということも検討する必要があります。

健康状態に問題がある場合

健康状態に問題がある場合

健康状態に問題があり、長期にわたって働くことが困難もしくは不可能となる場合には、労働契約を継続しがたいやむをえない事由があるとして普通解雇が認められる場合があります。

しかし、いきなり解雇とするとあとで無効と判断される可能性があります。就業規則等において、傷病休職制度が定められている場合、将来回復する可能性が全くなかったり、定められた休職期間では回復の見込みが乏しい長期の療養を要する病気であったりする場合を除いて、これらの制度を利用してまずは健康状態の回復を待つほうが無難でしょう。

なお、労働基準法においては、労働者が業務上負傷したり、疾病にかかったりした場合、療養のため休業する期間及びその後の30日間は、解雇はできないとされていますので、この規定に違反しないようにすることも必要です。

また、病気等により体力が低下した場合でも、より軽作業で済むような業務を準備できるのであれば、そこに配置転換等を行うなど、雇用を継続する努力をすることも必要とされます。

不当解雇の効果

不当解雇の効果

解雇につき正当な理由はなかったものと判断された場合、その解雇は無効となります。つまり、被解雇者との雇用契約は解雇通告後もそのまま継続しているということになるのです。

よって、後々、被解雇者が会社に対し解雇の無効を主張して訴えた場合、解雇されなければ得られたであろう賃金を支払う義務が生じたり、被解雇者の職場復帰を命じられたりするおそれがあります。1年前に解雇したにもかかわらず、突然1年分の賃金を一度に請求されるなどということにもなりかねません。

また、被解雇者には会社内に友人、知人がいる場合が多いでしょうから、会社内の雰囲気や士気も芳しくないものになるおそれがあります。被解雇者が、会社に一方的に不当に解雇されたなどと声高に主張し、それが現在も働いている従業員の耳に入ることは、他の従業員が会社に対する不信感や嫌悪感を抱くきっかけとなるでしょう。

さらに、解雇が違法とされた場合、このような解雇をされたことに対する慰謝料請求もなされる可能性があります。

よって、社員を解雇する際には極めて慎重に行わなければなりません。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅
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