これまで従業員と揉めたことはないが就業規則がないままで大丈夫だろうかと不安に感じていらっしゃる経営者の方は多いのではないかと思います。
幸いにも従業員との間に紛争が生じていない等の状況においては問題が表面化することはないかもしれませんが、会社の将来のために就業規則を作成しておくことをお勧めいたします。
今回は、会社に就業規則がないことのデメリットについて解説していきます。
就業規則とは?
就業規則は、従業員が会社で働いていく上での約束事をまとめたルールブックのようなものです。
従業員の雇用条件は使用者との間で作成する雇用契約書等で定められますが、雇用契約書に細かな雇用条件のすべてを網羅的に記載することは現実的ではないため、雇用契約書には雇用条件の主要部分を記載し、その他の労働条件については就業規則を参照するという形をとることが一般化しています。
就業規則の作成・届出義務
労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁へ届け出なければならないと定めています。
就業規則の作成等義務があるにもかかわらず、使用者が就業規則を作成等しない場合には30万円以下の罰金が科される可能性があります。
「常時10人以上」の判断基準
10人以上の判断においては正社員だけでなくパートやアルバイトも人数に含まれます。
常態として10人以上の従業員を雇用している場合に常時10人以上と判断されます。
常時8人の従業員を雇用し、繁忙期のみ従業員2人を臨時的に雇用するという場合には常時10人以上には該当しません。
常時10人以上の判断は事業場ごとに行われます。
事業場は、事務所、工場、店舗等のことを指しますが、事業場が複数存在する場合、ある事業場は常時10人以上に該当するため就業規則の作成等義務があり、ある事業場は常時10人以上に該当せずに就業規則の作成等義務がないということもあり得ます。
常時10人以上の従業員が存在しない場合、就業規則を作成等しなくてよいか?
事業場に常時10人以上の従業員が存在しない場合、法的には就業規則の作成等義務はありませんが、その場合でも従業員との間でのトラブル防止や従業員の規律強化等の観点から就業規則を作成等しておくことをお勧めします。
就業規則がないことのデメリット
就業規則が作成されていない場合、使用者には以下のようなデメリットが生じます。
社内ルールを統一できない
従業員が会社で働く上でのモラルが統一されていればよいのですが、従業員はそれぞれ別個の価値観をもっていますので、当然それはやらないだろうということが通用しないことがあり得ます。
そのため、業務中の服装、ハラスメント防止、秘密保持、不正行為の禁止などのルールは就業規則において定めておく必要があります。
何をしてよくて何をしてはいけないのかを前もって明確にしておかないと従業員のルール違反行為を指摘することもできません。
ルールが曖昧な状況では社内の秩序維持が困難となる可能性があります。
懲戒処分を行うことができない
従業員に問題行動があった場合、使用者がそれを是正する手段として懲戒処分があります。
使用者が従業員の問題行動に対して懲戒処分を下す権限は雇用契約から当然に生じるものではなく、あらかじめ就業規則に懲戒の種類や懲戒となる場合を事前に定めておく必要があるとされています。
就業規則がない場合、従業員に対して懲戒の種類や懲戒となる場合の予告がないとして従業員に問題行動がある場合でも使用者として懲戒処分を行うことができないということになります。
社内秩序を維持するためには、問題行動を起こした場合には懲戒処分があり得る、または実際に懲戒処分が行われたということを従業員が認識していることが重要となりますが、就業規則がないとそれらの抑止的行動をとることができません。
スムーズな人員配置ができない
事業場の規模や業務分配の内容によっては従業員の配置転換を行う必要が生じます。
使用者が従業員に対して配置転換を打診し、従業員がそれに応じる場合には問題となりませんが、使用者が従業員に対して一方的に配置転換を命じる場合には、就業規則において、業務上の必要に応じ配置転換を命じる可能性がある旨定めておく必要があります。
就業規則がない場合には配置転換を命じる権限があるか否かについて争いとなり、使用者が考える人員配置の妨げになる可能性があります。
時間外労働を命じることができない
業務を行う上で繁忙期には従業員に1日8時間を超える残業をお願いするということがあり得ます。
労働基準法は1日8時間、週40時間を超えて従業員に労働をさせる場合には従業員との間で36協定を締結し行政官庁に届け出ることを要求していますが、その前提として、就業規則には業務上の必要がある場合には時間外労働を命じることがある旨を記載しておく必要があります。
就業規則がない場合には時間外労働の可能性について指摘を受けていないとして残業を拒否され業務の円滑な進行が阻害されるおそれがあります。
その他
就業規則がない場合、定年、休職、代休、競業等についてもルールが設定されていないとして混乱が生じる可能性があります。
まとめ
今回は会社に就業規則がないことのデメリットについて解説してきました。
就業規則は会社と従業員との間のルールブックであるということに触れましたが、ルールブックがない状態で従業員との雇用関係を継続していると様々な場面で軋轢が生じる可能性があります。
実務上、ルールを設定しないことによる不利益を被るのは使用者側であることが多いため、従業員数の関係から就業規則作成等の法的な義務が存在しない場合でも将来の紛争抑止の観点から就業規則の作成等をお勧めしております。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。まずは、一度お気軽にご相談ください。 また、企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。